6つの実績

いろんな顔が出来た人と、そうしないで過ごした人の話。

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人間には複数の顔がある。
たとえば、学校や職場の顔と、自宅の顔。
塾とか趣味のサークルとか地域活動をしている時も、別の顔があるのだと思う。

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半年間の体験移住事業を終えるにあたって、
「ゆるい移住はこんなに実績をあげてきたんだよ」と言わなければいけない立場がある。
これは、勤労や納税という文脈が求められているのだと思う。

働かなくていい、家賃も払わなくていい、という条件で募集したけれども、
実際にはこんなに勤勉な人が来て、たっぷり納税するようになりましたよ、みたいな期待だ。
プロジェクトの意志決定に携わる人には、元々そういう説得を受けた人さえ居るかも知れない。

これは参加者視点で考えると、ちょっと残念だ。
結局働かないといけないし、家賃も払わないといけないのか。
じゃあ、仕事と家が無かったら、半年後には帰らないといけないな、と、なってしまう。

若新さんが仕掛けている企画意図というのは、プレジデントとかを読む限り、
そういう価値観の随分先を行っているのだけど、これは世間にとって、まだ早すぎる気がする。

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そこで、鯖江に残る意志があるという6人については、
世間が納得できる実績というのを説明できるようにしておいた方が無難なんだろうなと思った。

俺が半年を振り返って感じた、6人の実績を書いておこう。

一人は、普通に次の仕事をすることにした。途切れなく働くのだ。
労働者としての信用と、鯖江市での消費という役割で貢献している。
不動産の契約も出来るし、食糧を買ってくることも出来る。
なので、この人の存在価値は、誰もが認めるところであるだろうと思う。

一人は、元々無職だったが、福井に来てスカウトされ、仕事をすることに決めた。
体験移住期間中に自分で仕事を見つけたという点において、ある種、理想的な結果だと思う。

一人は、有能な人材だ。学歴だけで存在価値がある人だ。
だから、鯖江に住むことを決めただけで実績になる。
体験移住期間中もずっとバイトをしていたし、働くことへの意欲が元々高いのもある。

一人は、自分の肩書きを塗り替えることに成功したのだと思う。
凄いけど生活に根ざさない肩書きから、生活に密着した肩書きにシフト出来たのだ。
彼のもとには、新しい肩書きに基づいたオファーが既に何件も来ている。

一人は、元々インターネットで仕事が出来るし、今後も続けるんだろうと思う。

だからみんな、やろうと思えば、要領よく「労働者の顔」を見せることが出来る。
それが本人にとって本質じゃないとしても、一部の人はそれで納得できるわけだ。

メンバーの誰かが「働きたくない」とか言ってても、現に立派に働いている以上、
それは残業で帰ってきて家のベッドに倒れ込んで「もう動きたくなーい」と言うのと同じで、
プライベートな顔を見せているだけなので、真に受ける必要は無いのです。

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俺には、この文脈で格好をつけることが出来る材料は、Hana道場しかない。
かろうじて鯖江図書館にセンサーってのもあったけど、あれは大人の事情で外れてしまった。

だから恐らく、「Hana道場の常勤スタッフになる」というのが、
ゆるい移住の参加者の成功事例としては、良い落としどころだったんだろうなあと思う。

これも諸般の事情で書けなかったんだけど、Hana道場の運転資金は潤沢ではない。
体験移住者だからといって仕事を割り当ててくれるほどの余裕は無い。
仮にミキティが温情をもってスタッフを選んだとしても、救える人には限りがあるのだ。

だから俺は、4月以降のバイトを断った。
これで手元に残るのは、移住の文脈を持たない、ただの失業者という立場になる。
たとえHana道場に対して、無償の技術的貢献が出来たとしても、
それは「体験移住者が定住して勤労と納税をする」事を望む人を、満足させる事には繋がらない。

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でも、何にも無くなった俺は、すごく新しいところに居るという実感がある。

俺はここが若新ワールドなんじゃないかと内心勝手に思っているけれど、
(ポケットを広く開けたのは、彼じゃなくて、俺だったんじゃないか、みたいなね)
「労働者の顔」を作ることを放棄した立場としては、
「元ゆるい移住」を名乗って施しを受けることで、若新さんが不利益を被るのは、本意ではない。

鯖江に点在するグループの総力結集が地域発展の鍵なんじゃないかと思い至り、
エル・コミュニティとゆるパブの同時所属なんてのを狙っていたし、
実際にHana道場とゆるパブで活動していたわけだから、それは果たされていたし、
今後もHana道場にはバイトじゃないにせよ遊びに行くし、ゆるパブにも参加を続けたい。

誰かを敵、誰かを味方と区別して、特定組織に依存して生きるのは、俺の理想とは違う。

市役所もあわせて、複雑な関係になっている組織を乗りこなすほどの政治力も俺には無い。
市議会とかまで含めちゃうと、ほんとにもう、わけがわからない。
この複雑な構図を何とかするのは「新しいプレイヤー」だと思うけど、相当に難しい。
みんな仲良くできればいいのにね。

(編注:一行追加、一行削除、一行編集)

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俺は他愛もない日記を、そっと書いてたいの。

誰に憚られるでもなく、嬉しかったら嬉しいと言い、腹が立ったらむかつくと言い、
そうやって単なる一人の人間の行動や感想が情報として発信されることで、
それを見た誰かが、何かを感じ取ってくれれば、それこそが俺の求める実績なのでした。

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