動機

どうやら自分の動機が一番ゆるいらしいけど、かっこよくまとめておいた。

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あの日はポッカポカの晴天だった。
それ以前にまず、8月25日だった。

俺は阿寒バスに乗って、釧路から羅臼に旅行していた。
釧路(くしろ)というのは北海道の東側にある町で、湿原と廃墟しかない。サンマが旨い。
羅臼(らうす)は、よくわからないが、バスの乗り継ぎをするところらしい。
目指すは世界遺産・知床。

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札幌市民は、北海道のことを知らない。

札幌には北海道のすべてが集まっていると思っているからだ。
実際に札幌市の人口は、道内の人口減の逆を行くように、毎年1万人以上増え続けているし、
シャケ、イカ、ホッキ、ツブ、ホタテ、厚岸の牡蠣、毛ガニもタラバガニも、札幌で食べられる。
函館山の夜景も、旭山動物園も、海鮮も肉も乳製品も、日本最北端最東端も、
全部「道民」という枠で括られるので、とりあえず誇っておこうと思うのが札幌市民の実態だ。

東京で暮らすことのデメリットは、札幌には存在しない。
通勤で市営地下鉄に乗っても鮨詰めにならないし、道ばたで腐ったニオイもしない。
マンションは1万円台から借りられて、5万で住める戸建てもある。
道路は広くて駐車場も安いけど、別に車が無くても生きていける。

都会が不快と言われれば、雄大な大自然を説き、
田舎が不便と言われれば、日本6位の人口190万都市だと誇る。それが札幌市民なのだ。

かくいう俺も、札幌以外の道内の町には行ったことが殆ど無かった。必要が無いからだ。

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趣味の旅行で色々な都府県を巡った後で、北海道を旅していないことに気がついた。
北海道旅行は大変なのだ。広すぎるので時間がかかる。
そこで、札幌を拠点に出来るという立場を活かして、少しずつ巡ることにした。

小樽、余市、積丹、函館、室蘭。
富良野、旭川、留萌、稚内。
夕張、静内、襟裳。
帯広、釧路、根室。
そして、羅臼、知床。漢字どれだけ読めますか?

北海道は凄い。
「頭痛が痛い」「違和感を感じる」とか言うのは、「重言」という誤用にあたる。
だけど、重言の指摘をする人が、例として「雄大な大自然」を挙げるところは、見たことが無い。
それは、雄大な大自然という表現を北海道にあてはめる事に、違和感を感じないからだろう。
北海道は、それくらい凄いのだ。なんのこっちゃ。

まあ北海道の凄さは、実際に体験してみないとわからないと思う!
そんなわけで、今日も楽しく観光旅行に励んでいたのだった。

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釧路から羅臼までは、汽車が出てないので、バスで3時間35分かけて行く。
全長166kmですって。でもこれは、都市間高速バスじゃなくて、あくまでローカル路線バス。

片道4800円くらいするのだけど、実は7日間フリーパスが11000円で買える。
買えるんだが、誰もこのパスについて詳しくない。

JR釧路駅で買おうとしたら「北海道&東日本パス」という全然違うものに間違えられた。
「バスのやつです! 知床行くやつ!」とか言ったら気づいて貰えたけど、その程度の扱いだ。
運転手さんに見せると、無線で連絡をとって、そんな券あるのか? と毎回確認してくれる。

まあ実はこのフリーパスは、弟子屈(てしかが)町が女満別空港発着の観光客を、
阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖に誘導するために企画した4日間フリーパスの拡張版なので、
知床に行くほうの路線ではほとんど利用されていない、というのが真相だったのだけど。

乗ったバスは廃止寸前の絶滅危惧種で、自分以外ほとんど乗客も無し。
でも、道東旅行はレンタカー必須とか言うけど、これ一枚で、根室以外は回れるんだぞ。
根室は、釧路から朝イチで青春18きっぷ使って、現地で「のさっぷ号」のセット券を使えば、
JR代2370円、バス代2300円で、バスガイドのお姉さんつき根室まるごとツアーが楽しめるのだ。

そんなこんなで一日根室を満喫してきた後だったのと、
同じ経路を通るのが2回目だったこともあり、景色にも飽きたので、
バスの車内で日向ぼっことうたた寝をしながら、ネットで暇つぶしをしていたのだ。
意外にも、ドコモのLTEは途切れ途切れだが入るので、通信の余地は十分にあった。

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調べていたのは「田舎とIT」という検索ワード。
田舎で働きたいって考えてる人は一定数いて、特にIT業界ではブームのようになっている。
徳島県神山町が有名なサテライトオフィスとか。岐阜はギフコンバレーですってw

福井県福井市の「ど田舎IT就職」ってのも見つけた。
これが結構面白そうなのだけど、自分は今の会社のスタイルが気に入っているので、
就職が前提となると、ちょっと試してみるってのは難しそうだった。

「半農半IT」なんて言葉もあって、それも惹かれるものがある。
特にパソコンと向かい合って毎日カタカタやってると、「生きる」って実感を見失いがちだ。
自給自足まで行くとさすがに大変だけど、非常食程度でも自分で作れるなら魅力的だ。
でも、農業はそんな生やさしいものではないと聞く。

田舎暮らしの誘致をする話はいくらでもあるのだけど、
「永住が前提」「就職を伴う」「農業体験が必須」というあたりで、どうも折り合いがつかない。
すべてを自力で調達するのは結構大変で、特に行き先を選ぶのが難しい。

引っ越さないで頭の中だけで「田舎とIT」について深く考えようにも、
体験していないことへのイメージが沸かない。

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そんな中で、読んでいたページの関連記事リンクか何かに、
変なことが書かれているのを見つけたのだった。

若者がわざわざ地方に移住する場合、起業や農業など立派な目的を持っていることが多い。
しかし同プロジェクトでは、何かを押し付けることは一切しない。

ゆ、ゆるい!

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残念ながら事前説明会は結構前に終わっている。
応募フォームは残っていたけど、まあ無理だろうなあ、と思いながらも、一応記入した。

そのまま居眠りして、羅臼に到着。
幻の「イバラガニ」というものを初めて知る。食ってみると超うまい。
北海道には、まだまだ知らないことが沢山あるな。
などと、昼食を堪能して知床峠に向かう途中で、メールが届いているのに気がついた。

事前合宿への参加締め切りは8月21日(金)でしたが、本日中に事前合宿参加希望のご返事を頂けるのでしたら対応したいと考えております。

本日中って、何時までだろう・・・。
これから知床はカムイワッカの滝に行くのだけど、そこは電波が入らないと明記されている。
夜になればバスで網走まで行けるのだけど、お役所は昼で閉まるのではなかろうか。

知床自然センターで次のシャトルバスが出るまで、残り25分。
どうするか考えてる暇は無い。
なのに、F県S市がどこにあるのかもわからない。
たぶん関空から行けるのだろうから、飛行機の空席だけ確認しておこう。まあ大丈夫そうだ。
建物の外に出て、斜里町の方を向いたら、LTEの電波がギリギリ届いた。

送信完了だ。

やばい。バスに乗る前にトイレを済ませておかなければ。

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